東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1304号 判決 1976年5月27日
控訴人
沼崎フク
外二名
右控訴人三名訴訟代理人
立野輝二
被控訴人
株式会社
新田工務店
右代表者
新田義幸
右訴訟代理人
大森明
外一名
主文
原判決中控訴人敗訴部分を左のとおり変更する。
被控訴人と控訴人等との間において、被控訴人が原判決添付目録記載の土地について昭和四九年二月一日から一ケ月金四万二三五六円の賃料債権を有することを確認する。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じ一〇分し、その六を控訴人等、その四を被控訴人の各負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決中控訴人等敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、控訴代理人が当審における鑑定の結果を援用したほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
一 被控訴人が控訴人等に対し、原判決添付目録記載の土地(本件土地)を普通建物所有の目的で賃貸していることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件土地の賃料は昭和三九年以前から月額三四八〇円(3.3平方メートル当り約金三二円)であつて、その後改訂されていないこと、控訴人等は本件土地の北側部分に家屋番号七八番の建物(木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗面積一階94.61平方メートル、二階46.28平方メートル。三戸建棟割店舗)を、南側部分に家屋番号七九番および八〇番の建物(いずれも木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建居宅床面積33.88平方メートル)および未登記建物(木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅床面積約二五平方メートル)を所有し、そのうち居宅の一棟に自ら居住するほか、店舗のうち二戸、居宅のうちの一棟をそれぞれ他に賃貸し(他は空家にしている。)、昭和四九年二月一日現在で一ケ月合計金六万三〇〇〇円の家賃収入を得ていたことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。なお、控訴人等が前記空家部分を賃貸することができない事由は証拠上見出せない。
二被控訴人が昭和四九年一月二三日控訴人等に到達した書面をもつて昭和四九年二月一日以降本件土地の賃料を一ケ月金七万四一二三円(3.3平方メートル当り金七〇〇円)に増額する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがなく、原審における鑑定の結果によれば、本件土地の公租公課は昭和四五年度には昭和三八年度の約6.5倍、昭和四九年度には昭和四五年度の三倍となつていること、消費者物価指数(東京都区部、総合)も昭和三八年より昭和四五年まで七年間で45.5パーセントの上昇となつていたが、更に昭和四五年から昭和四九年二月までの約四年間で45.8パーセントの上昇を示していることが認められるから、本件土地の賃料額はそれが当事者間で協定された当時の経済事情が変動したことにより不相当となり、前記増額請求はその事由を備えているものとすべきである。
三そこで、右増額請求の時点における相当賃料額を検討する。
(一) 差益分配法、即ち対象土地の経済的価値に即応した適正賃料と実際支払賃料との間に発生している差額部分のうち貸主に帰属すべき部分を判定して得た額を実際支払賃料に加算する方法によつて試算するに、当審における鑑定の結果によれば、昭和四九年二月一日時点における本件土地の更地価格は一平方メートル当り金三四万円、底地割合は更地価格の二〇パーセントであることが認められるから、底地価格は一平方メートル当り金六万八〇〇〇円となる。そして、当該基礎価格に対する適正な期待利廻りを五パーセントとし、基礎価格に右率を乗じたものに当審における鑑定の結果により認められる昭和四九年度の本件土地の一平方メートル当りの公租公課額金726.67円を加算して得られる額と現行賃料(月額金三四八〇円。その一年分の一平方メートル当りの額は金119.3円)との差額の三分の一が賃貸人に帰属すべきものとして、前記方法に従つて算定すれば、一平方メートル当りの月額賃料は金一二一円となる。
(二) 次に、近隣の賃料から比準した価格を検討する。
ところで、このような比準賃料を算定する場合、賃貸事例と対象土地の事情(店舗地、宅地の種別等)、事例地の賃料決定時点と対象土地の価格時点との相違その他個別的諸要因の異同を踏まえて判断がなされるべきことは当然であり、この見地からすると、本件土地が、北側部分は青梅街道に接面する店舗地であるのに対し、南側部分はその後背にある住宅地であるという特性を有するのに、賃貸事例地をもつぱら近隣店舗地に求め、しかも本件土地につき宅地部分の価格補正を行つた形跡もないまま、比準賃料額を3.3平方メートル当り金四六〇円(一平方メートル当り金一三九円)とした原審における鑑定の結果は採用し難く、むしろ、当審における鑑定の結果に従い、比準賃料は一平方メートル当り店舗地につき金一七〇円、宅地につき金六〇円と認めるのが相当である(もつとも、本件土地が青梅街道に接面する店舗地の部分を含むといつても、右街道の反対側((北側))、国鉄阿佐谷駅駅南口商店街に包含される店舗とは格差のあることは原審および当審における鑑定の指摘するところであり、上記店舗地の比準賃料はこのことを考慮に容れて算定されたものであること当審における鑑定の結果に徴して明らかである。)。ただし当審における鑑定が、全体としての本件土地の比準賃料を単純に前記店舗地のそれと宅地のそれの平均値である金一一五円とみたのはいささか機械的に過ぎる。蓋し、原審および当審における鑑定の結果によれば、本件土地は奥行約二六メートルであり、このうち青梅街道寄り二〇メートルの部分は都市計画上も商業地域とされているということであるから、本件土地の店舗地性と宅地性はすくなくとも六対四の割合とみるのが相当であり、従つて本件土地の比準賃料は別紙Ⅱのような算定方法により一平方メートル当り金一二六円とみるべきである。
乙第一号証記載の近隣の賃料の事例のうち青梅街道に接面しない土地の賃料額は直接本件の参考資料とはならず、また右街道に接面する土地についての坪当り金二八七円と金一五〇円の事例は当該土地と本件土地の具体的異同が明らかでない以上、前叙の判断を左右するものではないとすべきである。
(三) 以上のほか(1)地価に対し継続地代の標準的収益率を乗ずる方法(原審鑑定)は当該算定方法ないし収益率の妥当根拠について説明がないので、採用するのに躊躇されるし、(2)スライド方式(当審鑑定)は現行賃料の正確な改訂時期が詳らかでないため、それを昭和三九年一月一日と仮定して算出したものであり、得られた結果の適正の保証を欠いており、(3)公租公課の額の二ないし三倍を求める方法(原審および当審鑑定)は取引社会において簡便な算出方法として採用されているという以外に合理的根拠に乏しく、いずれも適切でない。
(四) 当裁判所は、以上説示した諸点を合わせ考え、本件土地の昭和四九年二月一日時点の賃料額は3.3平方メートル当り月額金四〇〇(一平方米当り金121.21円。本件土地全体で金四万二三五六円)をもつて相当と判断する、されば、被控訴人の賃料増額請求により本件土地の賃料は昭和四九年二月一日以降一ケ月四万二三五六円に増額されたとすべきである。
四以上によれば、被控訴人の控訴人等に対する本訴請求は被控訴人が本件土地について昭和四九年二月一日から一ケ月金四万二三五六円の賃料債権を有することの確認を求める限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべく、これと異なる原判決中の控訴人等敗訴部分は変更を免かれず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(蕪山厳 高木積夫 堂薗守正)
別紙<省略>